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さようならはハワイで ドラマ09

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妻モノローグ(以下M)「二ヶ月前に父が亡くなった。一代で会社を築き、猛烈に働いてきた父。病気のことは家族に隠し、会社のことも、遺産相続のことも、後始末のすべては遺言状にしたため、ある日突然、その生涯を閉じた。完璧主義の父の、完璧な人生の幕引き。しかし…」

司法書士「(遺言状の音読)なお遺骨はハワイの海に散骨することとし、長女和子とその夫明彦が責任を持ってこれを行う。えー、というわけでですね、遺言状に従いまして、チャーター船の方は手配済みですので、お二人にハワイで散骨をお願いすることになります」

妻  「ええっ? 私たちが!?」

妻M「長女の私と、父の部下であり会社の新社長でもある私の夫は、その遺言状のせいで会社も家もほうりだし、常夏のハワイへと飛び立つことになった」

妻  「冗談じゃないわよ、のり子の受験で忙しいときに―」

夫  「こっちだって来週は株主総会なんだぞ。大事な入札もあるし工場の移転だって―」

妻  「達郎さんも百合子さんもみんな散骨なんて反対だって言ってるのに―」

妻M「父の遺言とはいえ、はっきり言って面倒くさい。私たちはわざわざパスポートまで取り直した。そもそも仕事しか知らない父は、ハワイになんて縁もゆかりもないはずなのに」

ハワイのホテルで

夫  「おう、まだそんな顔してんのかお前。表出てみろよ。いやー、素晴らしい青空だぞ。迎えのリムジンまでまだ時間あるよな、ちょっくら会社の土産買ってくるわ。マカダミアでいいやな」

妻M 「夫はハワイに着いた途端、なぜかコロッと態度を変え、はしゃぎはじめた。ゴルフにグルメにショッピング。腕には免税店で買った腕時計がキラリ」

夫  「チョコじゃなくてクッキーの方がいいかな?」

妻  「どっちでもいいわよそんなの」

妻M「そして私はその日、釈然としない気分のまま父の骨壺を抱き、船に乗って沖合に出た」

夫  「いやー、しかしとんでもなくキレイな海だなおい。俺も死んだらここに撒いてもらおうかなあ」

妻  「じゃあ今飛び込んだら? 私、二度もこんな面倒なことしたくないわよ」

夫  「ははっ」

妻  「もう、なんでお父さんハワイに骨撒くとか言うかなー。だいたい、お母さんが来ればいいのに」

夫  「なあお前、気づかないか?」

妻  「は?」

妻M「夫は言った。おそらく父は、私たちをハワイに連れてきたかったのだと」

夫  「俺たちの新婚旅行、ハワイの予定だったろ。でもほら、ちょうど不良品回収の対応で会社がてんてこまいなときで、結局キャンセルしたじゃないか。たぶんずっとそれがさ、社長には心残りだったんじゃないのかな」

妻  「えーそうかな。旅行なんかしてるひまないだろう馬鹿って、あなたに怒鳴ってたじゃない」

夫  「そりゃ他の社員の手前、俺にはそう言うさ。でも内心はさ、お前に幸せな時間を過ごさせてやりたかったんじゃないのか」

妻  「…」

妻M「ハワイなんていつでも行ける、そんなことより今は会社が大事。そう言い続けて、私たち夫婦は結局、これまでの二十年間、一度も海外旅行ができなかった。それは、社長であった父が一番よく知っていることだ」

夫  「こんなときしか、俺たちが二人でゆっくり過ごせる時間はないって、そういう親心なんじゃないか。実は空港までお義母さんが見送りにきてくれたときな、聞いたんだよ。お義父さんとお義母さんも、新婚旅行でハワイにいくのが夢だったんだってさ」

妻M「そんなの、ちっとも知らなかった」

夫  「知ってたら、一度ぐらい、一緒に来ればよかったなぁ。憧れのハワイ、か。お義母さんも連れてきてあげればよかったな」

妻M「父の遺骨は、ハイビスカスの花びらと一緒に風に乗って、まるで天国のような美しい青い海のどこかに消えた。気づいたら私は、夫の腕に抱かれ、父が亡くなってからはじめての涙を流していた」

製作・著作:BSN新潟放送
制作協力:劇団あんかーわーくす
脚本:藤田 雅史(ふじたまさし)

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